退任のご挨拶

退任のご挨拶

1987年6月に旧教養部に着任し、その後1996年に工学部で有機化学の研究室を主催して以来、およそ30年以上経ちました。山口大学での勤務は38年近くになりました。長年にわたってご指導いただきましてありがとうございました。時には厳しく時には楽しく時には熱く議論いただいた皆様方に感謝申し上げます。おかげさまでこの長きにわたり、私らしく有機化学を楽しく続けることができました。単に合成反応化学にとどまらず、時には全合成研究、時には機能材料開発、時には環境化学、時には無機表面科学、そして時には溶液の物理化学と幅広い分野の研究活動を進めてきました。著書も若い人への啓蒙書から実験手順書、専門書まで幅広く創ることができました。海外にもたくさんの友人を作ることもでき、多くの国を訪問して化学を通じてその国の文化の一端にも触れることができました。

これまで成し遂げたことの中身の評価は今後に任せるとして、どれも楽しくエキサイティングな活動でした。有機化学の狭い世界を飛び出て自然科学の多くの分野と他流試合の楽しさと厳しさを味わうことができたのはとても大きな喜びでした。例えば、人のやらないことを目指して、人の思いそうもない形で研究を進め、誰も気付かない結果も得られたのは、楽しい経験でした。それを世界で楽しく化学を語りながら研究できたのはとてもよい思い出です。これらの活動によって、山口大学化学系の地位を浮揚させることに少しは寄与できたことは、少々誇らしく感じています。先人たちの怠惰と能力欠如によって完全に地に落ちていた30年前の山大化学を復活させることにつながったのですから。もちろん、このすべての結果をもたらしてくれたのは、教室の多数の若い先生方のご助力と日々没頭して実験・研究を進めてくれた学生と大学院生の皆さんによってもたらされたものです。皆さんどうもありがとうございました。

この30年で日本の科学政策は大きく変わりました。私のキャリアのスタートの頃も今とは違う意味で困難な時代でしたが、今は形を変え、もっと上手に困難さをもたらす仕組みができています。研究費のすべてを外部からとってこない限り目の前の教育すらままならない。科研費を除く外部の研究資金の大半は、何らかの「狭い意図」によってコントロールされているので、新しい思いもかけない発見はとてもやりにくくなっている。その結果、論文誌に発表される成果が、かっこよくはあるものの、どれもこれも似たようなものになっているのは、気のせいでしょうか?この先の化学の発展が心配になります。意図せずとも、研究者から進んでそうせざるを得ない困難な時代。どうかこのような「せせこましさ」に負けず、どこかに余裕と遊び心を持ちながら思いもかけない新しい結果や概念を山口の地から創り出していただけますようお願いします。

今後は自分に残された時間を有意義に使って過ごそうと思っています。化学を含む幅広い分野の勉強は好きなのでここから決して離れることはありませんが、健康に留意しながら地域の良さや世界の広さに目を向けた自分なりの活動を進めていくつもりでいます。

最後に40年近くの長きにわたり、勝手気ままでわがままな研究者人生を過ごすことを理解し許してくれた家族に感謝します。ありがとうございました。皆さんとはまたどこかでお会いしましょう。

2025年3月31日 上村明男

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