Addition reactions of alkenes and alkynes, part 1
Addition reactions of alkenes and alkynes, part 1
アルケンやアルキンの炭素-炭素π結合は、電子リッチですから、電子不足な化学種、例えばプロトンH+と反応して「電子対を供与」し、炭素-水素間に共有結合を作ることができます。これはあたかも、アンモニアの窒素のローンペアがプロトンと「配位結合」して、アンモニウムイオンを与える反応とよく似ています。すなわちπ結合の電子対は、電子不足な原子に対して(求電子剤といいます。カチオン性のもの)「配位結合」し、新しい共有結合ができます。しかしアンモニアの反応では、窒素が電子対を供与するので、配位結合後生じた+1の電荷は窒素上に行きますが、炭素-炭素間のπ結合の場合はどうなるのでしょうか。
π結合の2電子は炭素-炭素二重結合を作っている炭素で「共有」されています。すなわち、このπ電子の2電子は、二重結合を作っている両方の炭素が「オクテット則」を満たすために必要な電子です。いま、これが求電子剤と反応して、新たに生じた共有結合を作るために使われたとします。例えばアルケンにプロトンを作用させてπ結合が新たなC-H結合になったとすると、結合ができた炭素は、π電子がC-Hのσ結合の電子になっただけなので、電子の増減はないのでオクテット則を満たしますが、結合にあずからなかったもう一つの炭素の方は、π電子の2電子がとなりの炭素に持って行かれてしまって(C-H結合になった)、価電子の数は8から6に減ってしまいます。従って、C-H結合のできなかった方の炭素が、カルベニウムイオンになることになります。すると、この炭素に今度は求核剤が作用して反応が完了します。2段階目はちょうどSN1反応と同じになる訳です。結局アルケンの二重結合に、求電子剤と求核剤が付加しているので、付加反応が進行したことになります。
付加反応にはいくつか(大別して3種類)のパターンがありますが、ハロゲン化水素の付加は、このようなメカニズムで進行します。プロトンが付加してカルベニウムイオンを与え、次いでハロゲンアニオンが付加して反応が完了する。非対称アルケンへの付加の場合は、2通りの生成物が考えられますが、実は一方しかできない。これはMarkovnikov則といい、有機化学の大事な法則ですが、一言で言えば、プロトンが付加したときにより安定なカルベニウムイオンが生じるように反応は進行する」となります。見かけ上は、2つのアルケンの炭素のうち水素がたくさんついた炭素にプロトンが付加するように見えます(Markovnikovの時代はこう言っていました)。従って、イソブテンと臭化水素からは臭化tert-ブチルしかできない。この選択性はハロゲン化水素だけでなく、酸性条件でのアルケンへの水の付加(水和反応と言います)でも同様に起こります。この方法をさらに効率的にしたのがオキシ水銀化-脱水銀ですけれど、反応はきれいなのですが、水銀を使うのは最近はためらわれるので、使われていません。
アルケンへの酸性条件での付加反応は、カルベニウムイオンを経由する以上、どうやってもMarkovnikov則にしたがった反応しか起こりません。そのため末端アルケン(RCH=CH2)への水和反応をやっても、枝分アルコール(RCHOH-CH3)はできますが、末端アルコール(第一級アルコールRCH2CH2OH)はできないことになります。それではMarkovnikovの縛りからどうやったら逃げられて末端アルコールができるでしょうか。それは「ヒドロホウ素化-酸化」の方法です。この方法を使えば末端アルコールだけを選択的に合成できます。すなわち、酸性条件(あるいはオキシ水銀化-脱水銀)によるアルコール合成と「ヒドロホウ素化-酸化」は相補的なアルコールへの水和反応として作用することになります。
Tuesday, 21 June 2016