有機化学1(2015)のページです。予習復習に役立ててください
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有機化学1
少しずつ難しくなってきましたね。がんばって勉強を続けましょう。この章ではカルボニル基へのヒドリドと有機金属試薬の付加反応について勉強しました。カルボニル基はアルデヒドやケトンなどの「付加反応で止まる」ものと、エステルヤ酸無水物、酸塩化物のように「付加脱離する」もの、それにアミドのように、付加した後にアミド基が脱離しないで残ってしまってから後続反応が起こるもの、の3種類に分類できます。
ヒドリドの付加反応は還元反応といいます。ヒドリドは「水素アニオン」あるいは「プロトンに2電子持ったもの」をいいます。プロトンとは区別してください。これ絵が求核的にケトンやアルデヒドカルボニル基に付加すると、アルコールに還元されます。還元剤はNaBH4がよく使われます。アルコール中ではこれはケトンとアルデヒドの還元には作用しますが、エステルは還元しません。エステルなどのアミド以外のカルボン酸誘導体を還元しようとすれば、NaBH4では無理で、LiAlH4を使う必要があります。これは強力な還元剤ですが、水とも発火を伴いながら反応するので、扱うときには注意が必要です。一般に完全に非水条件(乾燥した溶媒を使う)で取り扱います。エステルの還元では、ヒドリドがカルボニル基に求核付加、次いでアルコキシドが脱離して、いったんアルデヒドが反応容器内で生成し、これがさらに還元されてアルコールまでいきます。ですから途中では止まりません。LiAlH4はケトンやアルデヒドも還元しますから、エステルとケトンの両方を分子ではLiAlH4では両方アルコールまで還元されます。
アミドの還元では、ヒドリドがアミドカルボニルに付加するところまでは同じですが、アミド基(NR2-)が脱離できない(悪い脱離基なのでC-N結合が切れていかない)ので、アルコキシドが抜けてイミンもしくはイミニウム中間体になります。これがさらにヒドリドノ攻撃を受けて、アミンへと還元されます。すなわち、アミドの還元はアミンを与えることになります。
さて、カルボニル基を一気にメチレン基(CH2)まで還元するにはどうしましょうか。方法は3つあります。1つめはWolff-Kishner還元、2つめはClemmensen還元、3つめはジチオアセタールの脱硫です。Wolff-Kishner還元ではカルボニル基をヒドラジンを使ってヒドラゾンに変換し、これを強塩基と高温で強引に脱窒素させて還元する方法です。条件はきついですが、以外とアルカロイドなどの天然物合成にも使われたことがある反応です。Clemmensen還元はベンジル位のカルボニル基(芳香環に直結したカルボニル基)の還元に限られますが、亜鉛アマルガムを使った穏和な還元法です。昔はよく使ったのですが、さすがに水銀を使いにくい世の中になったこともあり、最近は使われなくなりました。ジチオアセタールの脱硫ではカルボニル基をジチオアセタールに変換し、これをRaney Ni(ニッケルとアルミの合金の粉末をアルカリ処理してアルミニウムを溶かしだしたもの)を使うと脱硫反応してメチレン基になります。おそらくこれがこの目的では今一番よく使われている方法でしょう。
さて、ヒドリドをカルボニルに付加させるには、NaBH4やLiAlH4のような試薬を使わねばならないのでしょうか。いくつか反応のしやすさをコントロールした試薬もあって、その一つがNaBH3CNです。これはNaBH4よりも反応しにくくてそのままではアルデヒドやケトンを還元しませんが、アミンを添加してイミニウム中間体を経由すると、還元が起こります。これを還元アミノ化反応といい、アミンを作る大切な反応です。
炭素−水素結合もヒドリド還元剤として使えるので、それを使った反応がCannizzaro反応とMeerwein-Ponndolf-Verley還元です。前者ではアルデヒドに強塩基条件で水酸基が付加したアルコキシドが、後者ではアルミニウムアルコキシドがヒドリドドナーとして作用します。
ヒドリドだけじゃなく有機金属試薬もカルボニル基に求核付加します。有機金属試薬は炭素と金属原子が直接結合した化合物のことで、C-M結合は電気陰性度の関係から炭素上がマイナスに分極する化合物です。従って、単純には「炭素アニオン」として求核剤として作用すると考えてかまいません。代表例はGrignard試薬です。これはハロアルカンとマグネシウムから発生できる試薬で、カルボニル基に求核付加(もしくは付加脱離)します。ケトンやアルデヒド相手には第三級もしくは第二級アルコールを与えます。エステルとの反応では2分子のGrignard試薬由来のアルキル基が求核付加して、第三級アルコールが得られます。これはヒドリド還元の時と同じパターンの反応ですね。アミドへの反応は途中で止まり、ケトンになります。これはどうしてなのかもう一度教科書を見てみましょう。
Grignard試薬の威力はすばらしく、この発見でGrignard先生はノーベル化学賞を受賞しています。簡単な分子から炭素数の多い分子をどうやって作るか、その際にその威力を遺憾なく発揮したのがGrignard試薬です。どうやって目的の分子を作るのか、その戦略デザインが「有機合成」の考え方で、今回のGrignard試薬を使えばいろんなアルコールが合成できることがわかります。この考え方にも慣れていきましょう。有機分子を作りたいときには必要になります。
Grignard試薬の欠点は、反応しすぎること。カルボニルと見れば直ちに求核付加してしまいますから、反応させたい分子に複数のカルボニル基があったら、そのコントロールが問題になります。反応してほしくないカルボニル基をどうやって「キャップ」するか。それが保護基(protective group)の考え方です。クルマの塗装などで見るマスキングと同じような考え方ですね。生体内の反応では保護基を使うことなく複雑な生理活性分子を作っているので、生体反応は人間のおよびもつかないうまい方法をとっているのだと感心することも多々あります。何億年もかけて進化してきて洗練された化学反応ですから、人知がおよばないのももっともかもしれませんね。
Thursday, 23 April 2015
Reactions of carbonyl compounds with hydride donors and organometallic reagents