化学Ⅱ
化学Ⅱ
2017
酸塩基の考え方のポイントは、共役塩基がどれだけ容易に発生できるか、言い換えれば共役塩基に発生した「-1」の電荷がどのように分子全体に 「ばらまかれて(非局在化)」して安定化が図られるか、がポイントになります。この「ばらまき」のためには、「共鳴構造の数」「芳香族になることによる安定化の獲得」「電子求引性基の直結」があります。前回の共鳴構造、結合のs性、電気陰性度、などの寄与とともに、酸塩基を考える際に大事な考え方になりますのでしっかりマスターしてください。
R3C-H結合が、R3C-とH+になるとき、これを炭素酸といいます。前回勉強したように炭素酸の「強さ」は対アニオン部分に大きく依存します。たとえば対アニオンにまったく安定化や共鳴がない場合、たとえばアルカンやアルケンなどの場合では、pKa値はとんでもなく大きな値になり、事実上酸としては作用しないことになります。エタン(CH3CH3)の場合は、pKa値は50程度となります。しかし、生成した炭素アニオンが共役して共鳴構造を持つことにより安定化されると徐々にその値は小さくなります。プロペンではpKaは43に、トルエンではpKaは41になります。対アニオンのアリルアニオン(CH2=CHCH2-)やベンジルアニオン(PhCH2-)に共鳴構造ができてやや安定化されるためです。
フェニル基を2つ持てばさらに安定化されますが(Ph2CH-)、3つ持つと今度は立体的な要因のためにフェニル基がねじれてしまい、π軌道とアニオンのローンペアがうまく共役できなくなるために思ったほどpKa値は小さくなりません。またトリプチシルアニオンのようにアニオンのローンペアとベンゼン環のπ結合が直交しているときにはまったく共役できないため共鳴の安定化は起こらず、結果としてpKa値は大変大きくなります。一方、ベンゼン環をつなげてそのπ結合とローンペアを共役できるようにした場合は、pKa値は14まで小さくなります。水が15.7ですから、それ以上の酸性を示す炭素酸ですから驚きです。
これ以外にも炭素酸を強くするには、1.対アニオンを芳香族にして大きな共鳴安定化を得る(シクロペンタジエンのケース)、2.対アニオンに電子求引性基を持たせて、アニオンの負電荷を分子全体に分散する(カルボニル基の場合)などがあります。ですから、炭素酸はそれが酸として作用するかどうかは、プロトンがとれたあとに生じる対アニオンの安定化に大きく依存していることになります。
2つめのポイントは塩基についてでした。塩基について考える場合でも、酸のときのpKaと同じ平衡式を考えたらいいのですが、よくよく見ると、化学式を右から左に読めば、共役酸の酸としての平衡の式になります。したがって、塩基の強さを考えるときには、その共役酸の強さを考えれば事足りることになります。そうすることで塩基のためにわざわざ特別の尺度をもおけることもなくなりますし、酸としてのpKaの表がそのまま塩基の強さを考えるときに使えることになります。もちろん「強酸の共役塩基は弱塩基」の言葉通り、強酸の対アニオン(=共役塩基)は弱塩基ですし、弱酸の対アニオン(=共役塩基)は強塩基です。ですから、酸としての強弱を表す指標を「逆」に並べて読めば塩基の強弱を示す指標になります。これは便利です。
Acids and bases 2
12/12/2017