化学Ⅱ
化学Ⅱ
2017
今日のトピックの基本はπ結合の拡張です。
共役は、π結合(例えばエチレン)の成り立ちを、単に拡張しただけのことです。エチレンのπ結合は、エチレンの2つのsp2炭素のpz軌道がかさなることで形成されます。このときに「結合性軌道(=いわゆる普通のπ軌道)」と「反結合性軌道(=一般にπ*軌道と呼ばれます。エネルギーは元のpzレベルより高くなります)」の2つの軌道ができます。ここで「sp2炭素がずっとつながっていった場合、π結合はどうなるのだろうか」という疑問がわきますが、答えは、「π結合がつながった(拡張したπ結合)ができる」となります。分子模型をつかってみればすぐにわかるように、sp2炭素が続くところでは、pz軌道が隣り合って存在できるので、「全部のpz軌道がかさなる」ことができて、新たな「長い」π軌道ができます。すなわちπ結合は別にsp2炭素が2つからできるだけでなくてもいい。sp2炭素が3つ、4つ、5つとつながっていけば、それだけ長い「π結合」ができるのです。これを「共役系」と言います。共役することで、エチレン型のπ結合(炭素2つ出てきたもの)を独立して存在させるよりも、ほんの少し安定化ができます。従って共役系を作ることで分子もより安定になれるメリットがあるのです。
π結合系の拡張は、何も偶数の炭素とは限りません。奇数でも拡張が可能です。代表がアリルカチオンです。アリルカチオン(CH2=CHCH2+)は、左から炭素1,2,3と番号をつけたときに、炭素1と2にはπ結合が(すなわち電子がある)ある状態ですが、炭素3は電子が足りない状態になっています。しかし、共役のところでも勉強したように、炭素1-3のpz軌道は「分かれてなく」て、むしろ「つながった状態」にあるわけです。したがって、炭素3だけが電子がない「極端な状態」は不自然です。また、この絵は電子をそれぞれ移動した場合に「+CH2CH=CH2」ともかけます。こうなると先とは逆に炭素1が電子がない、炭素2と3の間にπ結合がある状態にかけます。分子模型をくむと、π結合が3つの炭素につながって拡張されていることが明確に表すことができます。しかし、これを古典的な化学式表記で書くのはなかなか大変です。そのため、「共鳴」という考え方を導入する必要があります。
共鳴は平衡と間違いやすいので基をつけましょう。共鳴構造を書くときには、その分子の
1.構造(原子の配置)はかわらない
2.原子がどの混成軌道を取るのかも変わらない
3.変わるのは電子の配置(どこに電子が配置されているのか)が違う
それだけです。ですから、紙の上に共鳴構造はいくつかかけるとしても、その状態を反映した「分子模型はたった1つ」です。
共鳴とは、アリルカチオンの状態を、π結合を動かして2つの状態(CH2=CHCH2+と+CH2CH=CH2)を書くことができるようにするわけですが(詳細は教科書も見てください)、この2つの状態の違いは、電子の配置だけで、原子の位置や結合は一切動いていません。こういう2つの状態はいずれも「極端」な状態で、現実にはその中間状態(すなわち炭素1〜3のすべてに適当に電子がばらまかれている状態)であるのが、分子模型から想定される「真の姿」として素直に考えられます。いいかえれば「真の姿」は、上の式でも下の式でもない、その中間なのだ」と言えそうです。そしてCH2=CHCH2+も+CH2CH=CH2も、「極端なかたち」として考えられる式と言えそうです。ただ、化学式の制約から、このような式は素直にかけますが、その中間状態をうまく書き表す方法がありません。そこで、この2つの式を「両矢印」で結んで、真の姿は「この2つの極限構造式(極端な式、であることを表している名前ですね)の共鳴した状態なのだ」として表すことにしました。これを共鳴と言います。結局は、電子状態をどこかの炭素に集めるのではなく、分散して「ストレスのかからない状態」になろうとする、そうすることで分子の安定化(=エネルギーを下げる)を働かせる効果だと言うことができます。分子模型をつくって、状態をよく観察して、この概念を理解するようにしてください。
分子模型を使えばすぐにわかるπ結合の拡張をわざわざ「共鳴」の概念を使って説明するのは、模型ではすぐに表現できるpz軌道の連続した状態、そしてそこに電子がいられる状態を、紙の上での化学式の制約に当てはめて何とか表現するための方法、とも言えます。ですから、分子模型で当然のように見えてくる「π結合の拡張」を紙の上での「共鳴」の考え方に当てはめられるように、整理して理解するようにしてください。
共鳴は、その「可能性」と「貢献度(重要度)」を考えることも大事です。オクテット則を満たすようにπ電子を流していけば共鳴構造は書けます。これらは「可能性」としてそういった状態を持ちます。しかし、それが安定でとても「大事な構造」なのか、不安定でなかなか「レアな構造」なのかは、これまで勉強してきた基本概念(例えば電気陰性度など)を考えて、重要度を判断しなければいけません。安定な共鳴構造を持てば分子はより安定になりますが、不安定な共鳴構造しか書けなければ、分子の安定化にはあまり寄与しないことになります。従って、「可能」ではあるが「貢献は低い」共鳴構造も、一応は共鳴構造として書くことができて、その寄与を「評価して」考えねばならないことになります。
Conjugation, pi-electron delocalization, and aromaticity 1
21/11/2017