化学Ⅱ
化学Ⅱ
2017
今日のポイントは2つあります。一つはシクロプロパンやシクロブタンに見られる「角ひずみangle strain」と「重なりひずみtorsional strain」(これらをあわせて環ひずみring strainといいます)について、もう一つはシクロヘキサンのコンホメーションについての基礎的な事項(いす型(chair)コンホメーション・アキシャル(axial)・エクアトリアル(equatorial)・1,3-ジアキシャル相互作用(1,3-diaxial interaction)・船型(boat)コンホメーション・ねじれ船(twist boat)型コンホメーション)です。化学Ⅱの前半の山場ですからしっかり復習してください。分子模型を見ればすぐにわかることなので、模型をくんで勉強してください。
シクロプロパンは、炭素3つでできた環状アルカンですが、3つの炭素は平面上にこなければならないため、結合角は60°となり標準的なsp3混成軌道の角109.5°よりも45°以上も小さくならねばなりません。このため、大きな歪みが生じます。またすべての炭素は必然的に「重なりコンホメーション」をとらざるを得ないために、重なりひずみも最大となります。この重なりひずみはC-H1つあたり4kJ/molなので、シクロプロパンでは4×6=24kJ/molにもなります(example 4.2参照)。このためシクロプロパンは大変ひずみエネルギーを内包した化合物になります。シクロプロパンが切れて開いてしまえばこのひずみエネルギーが解放されるので、シクロプロパンは他のシクロアルカンに比べて環の開裂が起こりやすい分子になります。環のひずみの大きさについては85ページのTable 4.1をよく見ておきましょう。
シクロブタンは4つの炭素でできているアルカンですが、もはや平面になる必要もないので、結合角こそ88°と正方形の90°よりもほんの少し小さくなりますが、環がねじれてくれるために重なりひずみを解消し、だいぶひずみエネルギーが小さくなります。教科書のひずみエネルギーの見積もりのコラムを読んでもらえればわかりますが、シクロプロパンよりはだいぶ小さいですが、それでもまだ比較的大きなひずみを有しています。
シクロペンタンは、もしそれが平面で正五角形になれば内角が108°になるので角ひずみがなくなると考えられます。しかし現実のシクロペンタンは重なりひずみを解消するために平面構造をとらず、封筒型もしくはねじれ型のコンホメーションをとっています。実際に平面のコンホメーションをとれば先の重なりひずみが最大になるためにエネルギー的には不利なコンホメーションとなります。このためシクロペンタンは必ず立体的な構造をとることになります。
シクロヘキサンには角ひずみがありません。また最も安定ないす型コンホメーションには重なりひずみもありません。シクロヘキサンのいす型コンホメーションには、アキシャルとエクアトリアルの2つの水素が存在します。アキシャル水素はシクロヘキサンの平面から軸方向に伸びた水素です。一方エクアトリアル水素はシクロヘキサン平面の赤道方向に伸びた6つの水素をさします。シクロヘキサンではいす型コンホメーションが反転し、その際にアキシャル水素とエクアトリアル水素の位置が入れ替わることになります。詳しくは分子模型を組んでもう一度観察してみてください。
アキシャル位置とエクアトリアル位置もう一つの大きな違いはその空間的な混み合いです。エクアトリアル位は空間的に広いために、立体的なこの混雑はほとんどありませんが、アキシャル位の場合は1,3-ジアキシャル相互作用が発生するために非常に混み合います。アキシャル位には立体的に大きな置換基はき難いために、例えばメチルシクロヘキサンでは、メチル基はエクアトリアル位をとるコンホメーションを好み、アキシャルに来るのはほとんどありません。熱力学的計算からもアキシャルにメチル基がくるいす型コンホメーションは室温では5%以内であり、ほとんどがエクアトリアル位にメチル基がくるコンホメーションをとります。一般的に立体的にかさ高い置換基はエクアトリアル位を占める傾向にあります。また2つ以上の置換基を持つシクロヘキサンではそのうちの立体障害の大きい置換基の方がエクアトリアル位に優先してきます。
角ひずみのないもう一つのコンホメーションとして船型コンホメーションがあります。角ひずみがないために分子模型をくむと一見安定なコンホメーションのように見えますが、実はすべてのCH結合が重なりコンホメーションをもつ上に、へさきの水素間の距離は1.8Aしかありません。したがって船型コンホメーションは極めて不安定な構造となってしまいます。実際に2つのいす型コンホメーション間の環反転のエネルギーダイアグラムでは、船型コンホメーションは遷移状態(山の頂上)として存在します。船形コンホメーションの2つのへさき水素を少し前後にねじるとできるのがねじれ船型コンホメーションです。一見不安定に見えるこのコンホメーションは実は準安定構造であり(だからエネルギー図では谷底になっています)、何らかの理由でいす型コンホメーションを取れなくなったシクロヘキサンではこのコンホメーションをとった形で存在することが多々あります。ねじれ船型コンフォメーションは分子模型を組まない限り理解することができませんので自分で作ってよく見て理解するようにしてください。
Conformation and strain in molecules 2
20/11/2017