酸と塩基(2)
酸と塩基(2)
Tuesday, 28 January 2014
化学Ⅱの最後の授業です。3つのことを学びました。
1つめは、「炭素酸」です。R3C-H結合が、R3C-とH+になるとき、これを炭素酸といいます。前回勉強したように炭素酸の「強さ」は対アニオン部分に大きく依存します。たとえば対アニオンにまったく安定化や共鳴がない場合、たとえばアルカンやアルケンなどの場合では、pKa値はとんでもなく大きな値になり、事実上酸としては作用しないことになります。エタン(CH3CH3)の場合は、pKa値は50程度となります。しかし、生成した炭素アニオンが共役して共鳴構造を持つことにより安定化されると徐々にその値は小さくなります。プロペンではpKaは43に、トルエンではpKaは41になります。対アニオンのアリルアニオン(CH2=CHCH2-)やベンジルアニオン(PhCH2-)に共鳴構造ができてやや安定化されるためです。
フェニル基を2つ持てばさらに安定化されますが(Ph2CH-)、3つ持つと今度は立体的な要因のためにフェニル基がねじれてしまい、π軌道とアニオンのローンペアがうまく共役できなくなるために思ったほどpKa値は小さくなりません。またトリプチシルアニオンのようにアニオンのローンペアとベンゼン環のπ結合が直交しているときにはまったく共役できないため共鳴の安定化は起こらず、結果としてpKa値は大変大きくなります。一方、ベンゼン環をつなげてそのπ結合とローンペアを共役できるようにした場合は、pKa値は14まで小さくなります。水が15.7ですから、それ以上の酸性を示す炭素酸ですから驚きです。
これ以外にも炭素酸を強くするには、1.対アニオンを芳香族にして大きな共鳴安定化を得る(シクロペンタジエンのケース)、2.対アニオンに電子求引性基を持たせて、アニオンの負電荷を分子全体に分散する(カルボニル基の場合)などがあります。ですから、炭素酸はそれが酸として作用するかどうかは、プロトンがとれたあとに生じる対アニオンの安定化に大きく依存していることになります。
2つめのポイントは塩基についてでした。塩基について考える場合でも、酸のときのpKaと同じ平衡式を考えたらいいのですが、よくよく見ると、化学式を右から左に読めば、共役酸の酸としての平衡の式になります。したがって、塩基の強さを考えるときには、その共役酸の強さを考えれば事足りることになります。そうすることで塩基のためにわざわざ特別の尺度をもおけることもなくなりますし、酸としてのpKaの表がそのまま塩基の強さを考えるときに使えることになります。もちろん「強酸の共役塩基は弱塩基」の言葉通り、強酸の対アニオン(=共役塩基)は弱塩基ですし、弱酸の対アニオン(=共役塩基)は強塩基です。ですから、酸としての強弱を表す指標を「逆」に並べて読めば塩基の強弱を示す指標になります。これは便利です。
3つめはLewisの定義の酸塩基です。塩化アルミニウムはプロトンを持っていませんが、酸として作用します。ブレンステッドの定義では酸にならないですが、現実は強酸ですからこれは不都合です。そこで、Lewisは酸塩基の定義の基準を「プロトン」から「非共有電子対」に変化させました。これは、酸塩基反応を「配位結合形成反応」と見なし、ブレンステッドの定義では「電子対を持たないプロトン」を基準に考えていたところを、Lewisの定義では「配位結合する電子対」に視点を移したことになります。こうすることで、プロトン以外でも非共有電子対を受け取って配位結合する原子(や原子団)も「酸」として取り扱うことができ、めでたく塩化アルミニウムも酸の仲間入りができることになります。この定義は、ブレンステッドの酸塩基の定義の上位概念になりますので、ブレンステッドの酸塩基は常にLewisの意味での酸塩基になります。しかし、Lewisの意味での酸塩基が必ずしもブレンステッドの酸塩基にあてはまらないのは上記の塩化アルミニウムの礼を見ればわかりますね。Lewisの酸塩基の定義は一般には広く知られていないので、この定義での酸と塩基を言うときには「Lewis酸」「Lewis塩基」として呼びます。Lewis酸とは「空軌道を持つもの」、Lewis塩基とは「非共有電子対を持つもの」となります。したがって、大変多くのものがLewisの意味での酸塩基となり得ます。
最後に、来週は定期試験です。これまでの学習成果を発揮してがんばってください。問題は基礎的です。基礎的な概念がしっかり理解できていれば、問題はないでしょう。これまでの復習がものをいいますが、学習が足りてなかったとしても、来週の試験まで未だ時間はありますので、あきらめることなくしっかり勉強して試験に臨んでください。