共役と電子の非局在化(2)

Wednesday, 15 January 2014

 

今日のポイントはずばり「共鳴」とな何か?理解のためには分子模型がとても役立ちます。sp2炭素の玉と原子または分子軌道を表す「パドル」を駆使して勉強しましょう。授業で作った模型をくむとわかりやすくなります。

共鳴を理解する前に共役をおさらいしましょう。英語では「conjugation」ですが、一言で言えば「π電子の通り道ができたかどうか」です。結局はsp2炭素がつながった分子であれば、「pz軌道が連なってくれて、π電子(pzの電子)が連なりに続く限り移動できるようになる」と言うことになります。これが共役です。従って、共役に関わる炭素(酸素でも窒素でもかまいませんが

)原子はすべて「sp2混成軌道」でなければなりません。間に一つでも「sp3炭素」がはまり込めばそこで共役は「途切れます」

では共鳴は?共役すること出てきた「π電子の通り道」に電子が「ばらまかれて(一様とは限りません)」いる状態を示します。どうばらまかれるかは千差万別ケースバイケースですが、ともかくも、「化学式の上ではπ結合」が書かれていたとしても、共役の続く限り、そこに「普通の2炭素からなるπ結合」は存在せず、共役系に一杯に広がった「拡張π結合」が広がっているはずです。これを共鳴と言います。模型をくめば一目瞭然。

さて悩ましいのは、模型では理解できても、それをいままで慣れ親しんだ「化学式」ではかけないところにあります。そこで、上記の電子のバラまかれかたのうち、「化学式でかける極端なかたち」をいくつか書いて、それらを「両矢印」で結んで表記する方法が考えられました。これが「共鳴」を表す化学式になったのです。一般に化学式でかけるかたちは、極端なかたちでこれを「共鳴極限構造式」と言います。例えばアリルカチオンの表記はCH2=CHCH2+のようになりますが、だからといって左2つの炭素にπ電子が2電子がいて、右のカチオン炭素にπ電子が0のような極端な分布は考えにくく、3つの炭素に平均的にばらまかれていると考える方が、「分子模型を見た感じ」では自然です。しかし、「バラまかれた状態」はとても化学式では表記できません。そこでもう一つの極限構造式である+CH2-CH=CH2をかいて、上記とこの式を「両矢印」でつないで、共鳴をあらわそうとしたわけです。

では、共鳴構造式はどんなものを書いたらいいのか?の疑問になります。極限構造式は、一般に電子の(正確にはπ電子)移動のみで、分子の構造が変わってはいけません。水素一つ移動してはいけません。極限構造式を作るには、巻き矢印で電子を動かしつつ、オクテット則を満たす(最外殻電子は常に8以下)ように作ればいいのです。ここでも分子模型は役立つでしょう。模型をくんで、電子を配置していけば作れると思います。ただ、中には「こんなの本当にあるの?」といった共鳴構造式も出てくるでしょう。そこでもう一つのポイントです。「共鳴構造式はそれらはすべて等価とは限らない。有利に存在するものもあればほとんどあり得ないものもある」大事なのは、共鳴構造式がかけたからといって、その構造が「有利」なのか「不利」なのかは、状態を見て判断すればよい,ところです。「エネルギー的に不利そうだな」と思っても、共鳴構造式が「ない」というわけではありません。「その構造の寄与が小さい」だけの話です。

さて、最後はベンゼンの話でした。高校で勉強したときに、何となく適当に「芳香族の共鳴安定化」という言葉は聞いてきたと思います。ベンゼンの二重結合が、「ぐるぐる回って・・・」なんて話もきいたことがあろうかと思います。でもここまで「共役」と「共鳴」をしっかりマスターしたあなたは、ベンゼン環にはもはや「π結合が3つ」なんて考えはなくなっているでしょう。模型をくめば一目瞭然。「共役」で環上に広がった6つのpz軌道からできた拡張された「π結合」に「6つの電子がばらまかれて(共鳴して)いる」だけなのですから。実は環上の「拡張π軌道」でπ電子数が4n+2になると大きな安定化が起こります。詳しくは説明しませんが(分子軌道の概念が必要なので)、環になることでこういうことが起こるのです。水素化熱の測定による実験からも求まっているとおり、150kJ/molの大きな安定化は、芳香族化合物の正確を決めてしまう大きな要素です。π電子数が4n+2のとき安定化することを芳香族性といい、4n+2であることをヒュッケル則といいます。芳香族性はπ電子数が4n+2の時ならば起こりますので、授業の最後で説明した、トロポン(シクロヘキサトリエノン)や質問のあったピロールやチオフェン(窒素や硫黄の入った5員環)も芳香族化合物になります。

 
 

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