化学結合と分子の成り立ち(1)

Tuesday, 8 October 2013

 

化学を勉強するためにはいくつかの基礎的なことがらを整理しておくことから始めるのがいいで

しょう。有機化学では基礎的なことがらのつも重ねの上に勉強を進めていくことになります。こ

れから始まる有機化学では、いまの時点では想像もつかない詳しい内容を勉強していくことにな

りますが、それは実は基礎的なことがらの積み重ねの上にあるだけで、何も新しいことばかりを

学ぶわけではありません。むしろ高等学校で勉強したことがらを基礎として、お話しを進めるこ

とになりますから、まずはしっかり復習しながら、基礎的なお話しを見直すことにしましょう。

有機化学では有機分子を取り扱うことになります。従ってどのように分子をできているのかを整

理していきましょう。分子を構成しているのは、言うまでもなく「原子」であり、それらをつな

いでいるのが「(化学)結合」です。ですから、まずはこれらが何であるかを整理します。

「原子」は物質の最小構成単位ですね。原子は「原子核」と「電子」から成り立っています。「

原子核」は原子の性質を決める要素です。その質量は原子の大半を占めます。原子核には「陽子」と「中性子」があり、それらの質量は「ほぼ」同じです。従って、原子の重さは「陽子」と「中性子」の和になり、これを「質量数」といいます。陽子の数は原子番号ですから、その原子の「元素」を決定します。水素なら1、炭素なら6、酸素なら8です。一方中性子の数は、だいたいは陽子の数と同じくらいになることが多いですが、同じ元素でも異なる数を持つものがいくつかあり、それを「同位体」といいます。同位体には安定なものもあれば、放射能を持つ不安定なものもあり、いろいろです。元素によっては1種類しかないものもありますが、だいたいの元素は安定同位体を2つ以上は持っています。例えば炭素は質量数は12のものと13のものがあり、その存在比が約99:1ですから、炭素の原子量は、この両者の天然存在比を按分した値、12.011になります。原子量と質量数が微妙に違って、原子量が小数点以下何桁(最大で8桁)もあるのはこれが理由です。電子も原子の重要な構成要素ですが、これは結合に大きくあずかるので、まずは原子の中でどのような振る舞いをしているのかを見ていきましょう。キーワードは周期律表の「周期」と「族」です。電子は-1の電荷を持ちますから、普通の状態の原子では陽子と同じ数あります。これらが原子核の回りを「飛び回っている」ことになるのですが、その軌道(正確には存在する場所)は量子力学的な方程式で規定されます。というのも、電子くらいのサイズの世界では我々の一般社会の常識が通用しない物理学が支配し、電子は「粒子」でもありますが同時に「波動」の性質を強く持ちます。結果として、電子の軌道は「波動」方程式で記載できるので、その解として出てくるのが原子における「電子」の軌道となります。軌道の種類はいくつかに分けられますが、エネルギーの最も低いものから1s, 2s, 2p, 3s, 3p, 4s, 3d, …となります。s軌道は球形対象の軌道、p軌道は3種類あり、それぞれx, y, z, 軸方向に広がった軌道です。電子はエネルギーの低い軌道から順番に入ってきます。1つの軌道には2つの電子が入れます(スピンは逆向き)。また2p軌道には、空いたところから電子が入ることになります(Hund則)。

こうして原子番号が増加するとともに、電子が入っていくことになりますが、1s軌道を満杯にし

たHe、2s, 2pを満杯にしたNe、3s, 3pを満杯にしたArは、大変安定な原子になり、ほかの原子と

電子のやりとりをしない原子になります。これが希ガスと呼ばれる元素で、電子はその状態がと

ても安定になり、単原子で存在する物質です。実は電子の配置が、これらの元素と同じ、すなわ

ち2s,2p、あるいは3s, 3pが「満杯=8個の価電子(最外殻電子)」になると物質は安定となり、

その状態になろうとするのですが、どうしたらいいでしょうか?それがこれから化学結合を考え

るための大きなヒントになります。

電子の中でも価電子(=最外殻電子)が結合を考える際には大切になります。炭素だと4、ナト

リウムだと1、塩素だと7です。これらは元素記号の回りに「・」を書いて表すことになります

が、これは次週の授業で詳しく説明します。価電子の数が8もしくは0に近い場合だと、それら

を失うか、補充するかで「8」にできますから、容易に安定になれます。こうしてナトリウムや

塩素はそれぞれイオンになる傾向が高いわけです。1電子を失って陽イオン(=カチオン)にな

る時のエネルギーをイオン化エネルギーといいます。アルカリ金属が最も小さく、族が大きくな

るにつれて大きな値になります。イオン化エネルギーは中性の原子から、無理矢理1電子を引き

はがすので、吸熱反応になります。吸熱なので、熱化学方程式の右辺の数値は「正の数」になり

ます。電子親和力は発熱過程になります(エネルギーは負です)。それに加えて、元素の電子を

引きつけやすさの指標として電気陰性度(Electronegativity)があります。Paulingによって導

入されたこの数値は、単位がなく、単に元素ごとの電子を引きつけやすさの「指標」として使い

ます。有機化学を勉強するのでから基準は炭素で2.5であるのをおぼえておきましょう。周期表

上で炭素よりも右側にある元素は電気院亜制度は2.5よりも大きくなります。

結合は主に2通りあります。一つはイオン結合。陽イオン(=カチオン)と陰イオン(=アニオ

ン)がイオン的に(静電的に)結合する、という概念は大変簡単でわかりやすいのですが、有機

化学では「100%イオン結合」という結合はありません。すべて共有結合の性質を持った結合で

あり、イオン結合は「部分的」でしかないのです。共有結合は文字通り「価電子を共有して結合」しているもので、これが有機分子の「化学結合」の中心的役割を果たします。例えば塩素は価電子が7ですが、2つの塩素原子がその1つづつを共有することですることで、お互いに価電子が8個になれるため、結合を作れるのです。共有結合は常に電子の「ペア(=2個)」であることに注意しましょう。

共有結合を作るには2個の電子がいるのですが、この2つの電子は結合している2つの元素に均等

に配置しているとは限りません。結合している2つの原子が同じで対称な分子なら均等化もしれ

ませんが、左右の元素が異なればそれらの性質が出て、一方に偏った配置になります。こうなる

と電子を引っ張った方の原子はやや負になりますし、引っ張られた(持って行かれた)方の原子

はやや正になります。」これを分極といいます。正確にはもっと多くの効果があるのでややこし

くなるんですが、分極は結合を作っている2つの原子の電気陰性度の差で決まり、電気陰性度の

大きな方がマイナスに電気陰性度の小さな原子の方がプラスに分極します。また分極すれば、そ

の結合自体が正極と負極を持ったユニットとして見なせますので、それを双極子と呼びます。磁

気的な双極子は例えば棒磁石がそれですが、結合の場合はそれが小さな電気的なものとして見な

せることになります。分子内に複数の双極子があれば、それらの「ベクトル和」が分子全体の双

極子モーメントとなりますから、分極した炭素?塩素結合を持つような分子でも、分子全体とし

ては双極子モーメントが0になることだってあります(例えば四塩化炭素)。

 
 

next >

< previous